研究概要 |
初年度は主にフォトニック結晶導波路をベースとした半導体光増幅器の可能性を探索した.従来の薄膜フォトニック結晶スラブでは熱抵抗が大きすぎるために,光学利得を得るのが難しいことが以前の研究からわかっていたので,深い孔の配列を有する2次元フォトニック結晶を基本構造として採用した.まずは吸収・利得がない状況で,光伝搬特性を計算したところ,導波モードの群屈折率ngに対して5ng dB/mmの損失が見積もられた.すなわちフォトニック結晶特有の低群速度が生じる(大きなngが生じる)と,損失は非常に大きくなる。しかし利得もngに比例して大きくなるため,最終的には利得が損失を十分に補償できることがわかった.つまり近年,性能の面で劣るとされ,ほとんど研究が停止されていた深い孔をもつフォトニック結晶導波路が十分に活用できることを確認した,そこで誘導結合プラズマエッチングを用い,入出射導波路を接合したフォトニック結晶導波路を製作した.ここでは小さな格子定数で深い孔の形成が要求されるため,従来用いてきた塩素プラズマよりも反応生成物の脱離が良好なヨウ化水素プラズマを導入し,新規にエッチング条件を確立した.その結果,最大で13に及ぶ高アスペクト比を実現し,目的とする構造を形成することができた.広い光伝搬帯域とフォトニックバンド端に対応したカツトオフ特性が明確に観測された.そこでさらに,アクティブ領域とパッシブ領域を併せ持つ半導体ウエハを3回の有機金属気相成長法で形成し,これに上記導波路を形成した,そしてアクティブ領域に光励起を行いながら伝搬特性を測定したところ,吸収端近くで伝搬光の最大8dBの増大を観測した。フォトニック結晶においてこのような伝搬光の外部制御を実現したのはこれが初めての例である。今後,吸収端とフォトニックバンド端を正確に一致させることで,低群速度による大きな利得の実現を目指す.
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