研究概要 |
9.4T(テスラ)という高磁場において,ヒト胚子標本のような大きなサイズのサンプルを,MRマイクロスコープで撮像する場合には,計測系のダイナミックレンジ(その計測系で計測可能な最大の信号の大きさと雑音の大きさの比)が大きな問題となる.すなわち,MRIにおける三次元撮像においては,被写体の核磁化分布の三次元フーリエ成分が直接計測されるため,ほとんどのサンプルでは,フーリエ成分の低周波成分の信号が,高周波成分の信号に比べて非常に大きくなり,低周波成分を正確に計測しようとすれば,高周波成分は,計測系のノイズ(熱雑音,量子化雑音)に埋もれ,多くの場合,分解能が不足し,さらにはノイズの多い画像が得られる. この問題点を解決するためには,計測系のダイナミックレンジを可能な限り向上させる必要があるが,単一の受信系では,仕様等(信号帯域など)にも依存するが,ダイナミックレンジは,60〜80dBが限界である. 以上の問題を解決するため,本研究では,受信系の信号を二つに分割し,それらの信号を,ゲインの異なる二つの受信系で,並列に同時に信号受信・検波を行い,サンプリングする方式を考案した(日本国特許:特願2006-34978).すなわち,約30dBゲインの異なる二つの受信系を用いて,並列的に信号受信・検波を行い,ディジタルサンプリングを行った後に,計算機の中で,NMR信号を合成し,三次元フーリエ変換により画像再構成を行う方式である.なお,この方式の実施においては,二つのチャンネル間の信号のゲイン差と位相差を,精度良く求めることが非常に重要な技術であった. この方式により構築を行った並列受信機が,約90dBのダイナミックレンジを有することを実験的に示し,このシステムを用いて,ヒト胚子標本の三次元撮像を行うことにより,本システムの有用性を検証した.
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