研究概要 |
ひずみによる、ひずみシリコンのバンド構造の変化は、移動度以外にも、MOSFETの電気特性に様々な影響を及ぼしていると考えられるが、まだ十分に解明されていない。特に、反転層からゲート電極にトンネルするトンネルリーク電流は、素子の消費電力に大きな影響を及ぼすが、そのひずみの影響は、定量的に明らかでない。そこで今回、ひずみの量(SiGe濃度)の違うnチャンネルMOSFETのFNトンネリング・ゲート電流(Ig)を測定し、また酸化膜厚の正確な測定と酸化膜に印加される電圧の正確な測定を行って、SiO2に対するトンネル障壁高さを求め、ひずみとの関係を調べた。更に、ひずみが伝導帯のエネルギーに与える変化量との関係について、定量的に調べた。 測定には、バルクの緩和SiGe基板上にひずみSi層をエピタキシャル成長させた、二軸引っ張りひずみSi MOSFETを用い、Ge濃度を0,10,20,30%と変えて、ひずみ量を変化させた。酸化膜にかかる電界(Eox)は、MOSFETのゲート基板間容量とゲートチャネル間容量を測定し、それらをフラットバンド電圧から積分することにより求めた。結果として、以下のことが明らかとなった。 (1)同一酸化条件で、ひずみ量が大きくなると、ゲート酸化膜厚は減少する。 (2)ひずみ量の増大とともに、FNトンネリングのバリア高さが増大し、結果として、同じEoxで比較して、ゲートトンネル電流は減少する。これは、ひずみSi nMOSFETのもつ新たなメリットと言える。 (3)FNトンネリングのバリア高さの変化は、ひずみによる伝導帯の2重縮退準位の変化量とよく一致する。このことから、ひずみによるバリア高さの増大は、伝導帯の2重縮退準位のエネルギー位置が、ひずみ量の増大とともに低下することで、SiO2の伝導帯端とのエネルギー差が増大したためと結論することができる。
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