研究概要 |
電子ガスの低密度化に伴う不安定性の発生(負の圧縮率、負の誘電率の出現)を実験的に検証することを目的として、流体ルビジウムを対象に、SPring-8のビームラインBL35XUにおいてX線非弾性散乱測定を行った。その結果、100℃,10barから1400℃,200barまでの温度圧力範囲で、Q=3.19nm^<-1>から120.94nm^<-1>までの散乱ベクトル領域での動的構造因子S(Q,ω)を得ることに成功した。S(Q,ω)を減衰調和振動子モデルを用いて解析を行い、縦流速密度相関関数を導出することによって集団運動の分散関係を得た。低散乱ベクトル領域のQ=3.19nm^<-1>および4.53nm^<-1>において、本実験によって得られた励起エネルギーと断熱音速から見積もられる励起エネルギーとの比較を行ったところ、それらの間の偏差は、まさに電子系が不安定性を起す密度で大きく変化することが判明した。さらに、分散関係から見積もった音速と断熱音速とを比較したところ、電子系が不安定性を起す密度領域で差が生じ始め、動的音速が断熱音速より大きくなった。これらの結果は、電子系の不安定性に起因して流体ルビジウムの中に構造のゆらぎ(不均質性)が現れ、その不均質構造の中に1.4〜2.0nmスケールの硬い部分が存在することを示す。また、粘弾性理論による緩和時間の近似式をもとに、Q=8.31nm^<-1>、9.71nm^<-1>および11.05nm^<-1>における動的密度ゆらぎの緩和時間を見積もったところ、緩和時間がサブピコ秒であることが分かった。これらの結果は、これまでのX線回折、X線小角散乱測定によって得られた結果、すなわち電子ガスが不安定性を起す密度領域で原子間距離の短縮と密度ゆらぎが発生することと完全に符合すると同時に、ダイナミクスについての新たな知見をもたらすものである。
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