研究課題
平成17年度の研究実施計画はアクアトロンにおける1)ミニトランスポゾンの溶存、細菌、ファージ分画への分布と存在時間を評価することと、2)遺伝子水平伝播頻度の経路別評価を行なうであった。これらの研究計画に基づいて、以下の点を明らかにした。1)細菌食者の繊毛虫Tetrahymena thermophilaが遺伝子の接合伝播に与える影響を解析した。その結果、T.thermophilaは、細菌の細胞密度が1×10^6cfu/ml以上の場合にのみ遺伝子の接合伝播頻度を上昇させるが、自身による細菌の摂食により細菌細胞密度を減少させ最終的に接合伝播を抑制することが明らかとなった。2)M.aeruginosa(生産者)とT.thermophila(細菌食者)から成る生物群集が、細菌間での遺伝子の接合伝播に与える影響を解析した。その結果、両者が共存した系では、遺伝子供給菌の減少が最も速くなり、トランス接合体の数も減少した。そのため、両者の共存は遺伝子の接合伝播を抑制する事が示唆された。3)細菌が自己溶菌およびファージ感染において死亡した場合、クロモソームおよびプラスミドはほとんど分解を受けない状態で細胞外に放出された。一方、原生動物による捕食によって死亡した場合には、クロモソームおよびプラスミドは分解された形で細胞外に放出され。これらのことから、ファージによって殺された細菌のDNAは細胞外の遺伝子プールになることが考えられた。4)プラスミドDNAは細胞由来の物質と結合した状態で放出されること、および接合物質はプラスミドによる形質転換の頻度を低下させ、形質転換可能な細菌種を制限することを明らかにした。5)TnMERI1型トランスポゾンから再構築したミニトランスポゾンの接合による細菌細胞間遺伝子伝播について実験を行ったところ、このトランスポゾンのレプリコン間転移と定着には、細菌が保有するRecAタンパク質が一定の役割を果たしていることが明らかとなった。したがって、トランスポゾンの伝播には、トランスポゾン自身の転移能力の他に、生物細胞が持っている自発的組み換え機能が関与すると考えられた。6)自然界において過去に起こったトランスポゾンによる遺伝子伝播を立証し、その全体的生起状況と伝播後の世界的な拡散について知るために、自然界から分離した水銀耐性細菌を用いて、多種のグラム陽性芽胞形成細菌の染色体に存在するTnMERI1型トランスポゾン領域および周辺領域の逆方向反復配列(IR)および順方向5塩基反復配列(DR)とその周辺領域の塩基配列を調べた。その結果、多くの細菌においてトランスポゾンの細菌種間伝播がみられること、およびその後の細菌の地球規模での移動・拡散がみられることが明らかとなり、トランスポゾンの転移と接合に端を発する遺伝子伝播が過去において多くの事例としてなされていることが明らかとなった。
すべて 2006 2005
すべて 雑誌論文 (3件)
Microbial Ecology (in press)
Journal of Plankton Research 28
ページ: 407-412
FEMS Microbiology Letters No.253
ページ: 309-314