18年度は3年間のまとめを行い、以下のような研究の進展について総括した。 (1)フォールディング研究で開発されたシミュレーション法を拡張して適用した。この方法をアクトミオシンに適用し、ミオシンがアクチンフィラメント上を動く機構を分析し、レバーアーム的な運動を示すもの、偏ったブラウン運動に相当するすべり運動を示すものなどが混在していることが示された。 (2)Goモデル、および類似のモデルを用いて蛋白質のフォールディング過程を分析した。とくに、対称性の高い天然構造へのフォールディング経路は複数あり、そのどちらが選ばれるかは、実験または計算条件によって敏感に変化することを見出し、フォールディングの高次元座標空間を低次元のオーダーパラメータ空間で理解するときの論理を明らかにした。 (3)機能ファネル理論の展開:統計力学的モデルによりPhotoactive Yellow Proteinにおけるシグナル伝達機構を分析した。 (4)蛋白質立体構造形成過程のシミュレーションを行い、国際的な立体構造予測コンテストであるCASP7に参加し、いくつかの蛋白質については上位の成績を占めた。 (5)配列選択シミュレーションを行った。ランダム配列から始めて機能に関する選択を行うことによって、フォールディング能力が獲得されることを示したほか、得られた配列のフォールディング過程(個体発生)と選択による構造形成過程(系統発生)の間に相関があることを示した。 (6)ナノメートルサイズの疎水的溶質としてカーボンナノチューブを取り上げ、溶質のまわりの水和構造を分子動力学計算を用いて分析した。溶質の空間的配置の効果の重要性を明らかにした。
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