近年、種々の環境要因の中で特に光がヒトの生理・心理・行動に大きく影響することが明らかにされつつある。健康で快適な現代生活環境を計画する基礎として、本研究では、季節、時間によって異なる自然光の地域環境条件に注目し、その中で住みこなしてきたヒトの環境に対する、あるいは環境の変化に対する適応(環境適応能)を明らかにするとともに、地域の光環境がもたらす生理的多型性を考察することが第一の目的である。さらに得られた知見を基に、今日の人工照明環境計画について、ヒトのテクノ・アダプタビリテイーの視点から提案することが第二の目的である。具体的には、高・中・低緯度地域および季節において人々が一般生活の中で受ける光の量と質が、メラトニンリズムおよび睡眠-覚醒リズムにおよぼす影響を把握する。 本年度はまず、低緯度地域のベトナム(ハノイ)において春分、夏至、秋分、冬至における自然光環境特性の把握と、ヒトが生活の中で実際に受ける光の特性およびメラトニンホルモンの関係について測定・調査を行った。すなわち、被験者15名に対し、各季節それぞれ7日間、自然光および日常生活の中で受ける光の照度と波長分布および色温度を測定した。また併せて、その間のメラトニンリズムおよび睡眠一覚醒リズムを測定した。それらの分析の結果、低緯度地域(ベトナム:ハノイ)のメラトニン分泌リズムは夏にやや後退傾向が認められるが、四季を通して類似したリズムを示すこと、高緯度地域(ポーランド)や中緯度地域(日本)に比べてその分泌量が年間を通して低濃度であることが明らかとなった。これらの3地域におけるメラトニン分泌の特異性と光環境との関係について関連研究者が2007年2月ベトナムHanoi Medical Universityに集まり、議論とまとめをおこなった。
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