研究課題
基盤研究(A)
テンサイの細胞質雄性不稔性の発現機構を明らかにする目的で、雄性不稔の原因ミトコンドリア遺伝子の作用を抑え、稔性回復に働く核遺伝子Rf1のクローン化と翻訳産物の特徴づけを中心に研究を進めた。得られた成果は次の通りである。1. 雄性不稔分離集団を用いたマッピングにもとづいて、Rf1座を第III連鎖群の260kb領域に絞り込んだ。この260kb領域をカバーするBACクローンとコスミドクローンを選び、全塩基配列を決めた。2. その結果、28個のORFをみつけたが、葯において転写し、翻訳産物のミトコンドリア輸送が予想されるORFは5個のみであった。3. これらのORFより、Rf1の最有力候補配列としてMPL(metalloprotease-1ike)遺伝子を特定した。MPLはRf1座において4コピー存在し、クラスターを形成している。一方、Rf1をもたないテンサイ株(rf1劣性ホモ接合型)では、大規模なMPLの構造変異がみつかった。4. Rf1の分離集団を用いて、MPLのノーザン解析を行った。Rf1の働きで稔性を回復した個体では、強いシグナルがみられたが、完全不稔型植物(rflrf1)においてはシグナルが検出されず、稔性回復とMPLシグナルとの密接な相関が確かめられた。5. in situハイブリダイゼーションを通じて、MPLの発現が小胞子四分子期及び小胞子初期の葯タペート細胞のみに限局されていることが明らかとなった。6. 雄性不稔株のタペート細胞(小胞子初期)では、花粉形成に重要な役割を果たすと考えられる葯特異的脂質輸送タンパク質(LTP)遺伝子の発現が著しく抑制されることが判明した。テンサイ細胞質雄性不稔株においては、雄性不稔原因タンパク質によってミトコンドリアの機能に不具合が生じた結果、タペート細胞で何らかの生理障害が発生し、これに伴ってLTPの発現も阻害されたと解釈される。
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