研究概要 |
登熟期間の異常高温・低温によって水稲玄米の粒厚・粒重が低下する要因や白色不透明部が発生する要因を,電子顕微鏡および光学顕微鏡を用いて形態学的・生態学的に解明することを目的として行われた.また,食味関連形質を含む種々の品質が低下する要因との関連も検討した. 本研究の結果,高温下では,登熟初期に転送組織の構造や胚乳の初期形成に異常が生じることが明らかとなった.アミロプラストの増殖異常やアミロプラストの収縮に伴う空隙の増加によって不完全登熟米が発生することも判明した.また,高温で多発する胴割れ米は,登熟初期に胚乳細胞内の物質の蓄積が低密度であることに起因し,その後,アミロプラストの増殖異常や,表面にしわや凹みを生じたアミロプラストが多数認められることも明らかとなった.一方,低温登熟下で,粒厚が選別基準よりもわずかに薄いために屑米と選別された「半完全米」は,登熟が終了する前に同化産物の供給が停止して発生することが明らかとなった.そして胚乳内では,増殖異常を生じた小型のアミロプラストや,収縮によるしわや凹みを生じたデンプン粒を含むアミロプラストなどの異常形態が認められた.そのほか,2005年茨城県産コシヒカリの粒厚・粒重,成分の解析や,貯蔵物質の蓄積構造の形態学的解析などを行った.また,不完全登熟米が炊飯時にいびつな粒形変化を示す原因を解明した.さらには,水稲における貯蔵物質の蓄積構造および転流・転送系の特徴を明確にするために,コムギおよびオオムギ子実における貯蔵物質の蓄積構造を調査し水稲と比較した. 本研究の成果は,栽培管理方法の改善に寄与するばかりではなく,高品質・高食味米嗜好が顕著となってきた現代社会のニーズに応える情報を提供するものと考えられる.
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