研究概要 |
2008年3月までに西日本各地より6種類の珪藻ウイルス(RsRNAV,CsNIV,CtenRNAV,CdebDNAV,CsfrRNAV,CcflDNAV)の分離に成功した。いずれも粒径<40nmの球形ウイルスであり、ゲノムは1本鎖(ss)RNAまたは1本鎖(ss)DNAであった。CsNIVおよびCcflDNAVは、環状ssDNAの一部が相補的な直鎖的な直鎖DNAと水素結合し2本鎖になっているものと推察された。こうした特殊なゲノムを持つウイルス群が珪藻を宿主として続けて見つかった点は注目に値する。各ウイルスの塩基配列に基づくBLASTおよびRNA衣存性RNAポリメラーゼ領域を対象とした系統解析の結果、珪藻感染性のssRNAウイルスグループとssDNAグループは、いずれも既知のウイルスと進化的に大きく隔たる新奇なウイルス群であることが明らかとなった。一方、各グループ内ではウイルス種間で相互高い相同性がみられた。現場調査の結果、いずれのウイルスも水柱ならびに海底泥において、MPN法で検出可能なレベル(>3.01感染単位/ml)で出現した(最高検出密度=3.1×10^4感染単位/ml)。この結果は、ウイルスが現場環境において珪藻宿主個体群に対し一定の生態学的影響を与えている可能性を示唆するものと考えられた。さらに、ノリ・珪藻・ウイルスの2者または3者培養を用いた実験系を設計し、ウイルスによる珪藻増殖阻害がノリの生育に与える影響を検討した結果、ウイルス添加区でのノリの顕著な増殖促進が観察された。この結果は、ノリ色落ち防止へのウイルス適用技術開発のため基礎データとなるものであり、同分野における今後の実学的研究の推進が強く望まれる。
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