研究概要 |
我々は大気中超微量活性窒素(NO_x)が、「植物ホルモン様」作用をもつことを見出した。本研究はこの発見に基づき、大気中に含まれる各種活性窒素(特にNO, NO_2)のシグナル作用の統括的理解と応答遺伝子の解明を目指し、バイオマス生産、環境修復機能のガス制御を可能とする新しい農業生産シグナルの創出を目指す。これまでの結果は、ニコチアナ・プランバジニフォリアを用いた実験であった。昨年度、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、ニコチアナ・プランバジニフォリアで発見された大気中NO_xの「植物ホルモン様作用」が確認された。すなわち、200ppb NO_x4週間処理により、バイオマス量、全葉面積、C, N, S, P, K, Ca, Mg量が1.5-2倍増加した。また、^<15>Nを用いた実験から、NO_x由来のNは全窒素の3-4%を占めるに過ぎず、NOxはシグナル用物質(vitalization signal)として作用することが分かった。以上、大気中NO_xの「植物ホルモン様バイタリゼーション・シグナル作用」は、植物全般に作用する新規な効果であることが確認された。シロイヌナズナ第五葉の横断面および平皮面の組織化学的な解析から、NOx処理で細胞の大きさはほぼ変わらず、細胞数が増加することが分かった。リアルタイムPCR法により、活性窒素ガス処理で発現変動する遺伝子の解明をめざした。処理開始4日目で、細胞周期制御遺伝子(4個のcyclin、9個のCDKおよびCKLと1個のKPR遺伝子)の発現量がNOx処理により有意に上昇していた。細胞伸長遺伝子(エクスパンシン遺伝子)が処理開始14日目で著しく上昇していた。これらの結果は、大気中NOxは、処理開始初期には、細胞分裂関連遺伝子を活性化し、その後細胞伸張関連遺伝子を活性化することを示唆するものである。以上の知見は、大気中超微量NO_x(数百ppb)の農業生産シグナルとしての作用の分子機構解明の重要な手がかりを与えるものである。
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