研究概要 |
^<15>Nラベルしたリコンビナント・ハムスター・プリオン蛋白(rPrP90-231)を用い,CPMG緩和時間分散法及び高圧NMR法により,各アミノ酸残基のグローバルなダイナミクス及び熱安定性を調べた。これらの情報に基づき,熱安定性の低い部位に選択的に結合し,抗プリオン作用を発揮する低分子化合物を,In Silicoスクリーニングにより探索する。さらに,ヒットした化合物を実際に入手し,プリオン感染モデル(培養細胞,マウス)により抗プリオン活性を評価することにより,新規薬剤を開発する。NMR測定により,マイクロ秒からミリ秒の遅いダイナミクス測定で著明な揺らぎを示す残基群が,主にB及びCヘリックスに存在し,病原性変異を示す残基群の分布に類似していることが判明した。さらに高圧NMRを用い,残基毎の熱力学的安定性を調べた結果,安定性の低い残基群は,B及びCヘリックスに存在していることが分かった。すなわち遅い揺らぎを示す残基群と低い熱安定性を示す残基群とは,比較的よく一致していた。これは,B及びCヘリックス部分に特に不安定な残基が存在し,これらの変異によりプリオン蛋白質全体が一層不安定になることを示している。このようなプリオン立体構造の不安定性は,感染型への構造変換反応における遷移状態のエネルギーを低下させる可能性がある。 これらの情報に基づき,我々はそのような熱的に不安定な残基に囲まれた部分に選択的に結合する薬剤を,In Silicoスクリーニングにより探索した。さらに,ヒットした化合物約100種類を入手し,プリオン感染モデル(培養細胞,マウス)により抗プリオン活性を評価した。その結果,複数の化合物に,抗プリオン作用があることが確認された。
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