本邦における潰瘍性大腸炎患者数は著しい増加傾向を認めており、それとともに現在の治療では難渋する難治例が増えている。我々はこれまでに肝細胞増殖因子等を用いた炎症性腸疾患に対する粘膜上皮の修復・再生療法を開発してきたが、さらに幹細胞を用いた腸管粘膜上皮の再生治療法の開発・実用化が切望されている。今回の研究では、ヒトの上皮幹細胞を同定・単離・純化する、ヒトの上皮幹細胞に特異的なマーカーを確立する、ヒト炎症性腸疾患患者の腸粘膜検体を用いて、幹細胞および上皮の分化異常について既存のマーカーを中心に検討し、幹細胞を用いた新しい再生治療を開発することを目的とした。前年までの研究で、腸管上皮幹細胞において、Wntシグナルの下流にあるβ-catenin、Notchシグナルの制御因子であるmusashi-1の発現が増強していることより、これらのシグナルの協調作用が腸管上皮幹細胞の増殖、分化にとって重要であることが示唆されたため、今年度はWntシグナルに焦点を絞って解析を進めた。まず、TOPGFPマウスの作成によりWntシグナルの可視化を行い、TOPGFPマウスよりFACSを用いて細胞回収したstem cellを含むGFP陽性細胞群と、GFP陰性細胞(stem cellを含まない細胞)群をmicroarrayで比較した。差のある遺伝子として、発生および細胞周期の調節に関するものが多数認められた。RTPCRで発現の上昇が確認された。さらに、免疫組織化学あるいはin situ hybridizationでその発現がstem cell positionに確認されたいくつかの遺伝子に関しては、その機能解析を目的としてtransgenic mouseを作製した。
|