研究概要 |
1.背景:新型インフルエンザ発生候補地の中国南部と国境を接するベトナムにおける疫学的検討が重要である背景から本研究が開始された。しかし、2003年から高病原性鳥インフルエンザA/H5N1が流行し、2006年3月迄には93例の患者中42例の死亡例が報告されている。この波は東南アジアに止まらず中近東にも波及し、パンデミックとなることが危惧されている。 2.目的:不明なままであるベトナムのウイルス性急性気道感染症(ARI)の疫学的研究を行い、インフルエンザA/H5N1、他の血清型の株におけるアマンタジン耐性株発生状況も検討する。 3.方法:ハノイ市内の病院、1医院等において、発熱、咳、鼻汁を呈したARIと診断された患者とインフルエンザA/H5N1の患者が調査対象である。初診時に咽頭拭い液を採取し、ハノイのNIHE(国立公衆疫学研究所)に送り、検査時まで冷蔵庫に保存した。ウイルス分離陽性株はHI試験、中和反応により同定した。また、インフルエンザはRT-PCR法によっても同定を試みた。インフルエンザA/H5N1は、NIHEのP3実験室で培養を行い、我々は陽性株をcDNAにした後でアマンタジン耐性株の有無を新潟大学で検討した。 4.結果・考察:2001年から2005年にハノイ市のARI患者検体からA型、B型インフルエンザを検出し、特にA/H1N1,A/H3N2の来院時検体からアマンタジン耐性株の有無を検討した。耐性株は2002年から毎年見られ、A/H1N1は2002年の1例のみ、A/H3N2は2004年の2.9%が2005年には30.8%と急増した。この株と日本で急増したA/H3N2耐性株とはHA遺伝子の系統樹解析から同型と見られ、この発生機序と最初の国・地域の特定化を含むグローバルな対策の必要性が本調査から始めて示唆された。一方、2003年からのA/H5N1全例が二重変異を持つ耐性株であった。ARI患者検体からの疫学解析を鋭意進めてはいるが、特にA型と判定された際にはH5N1とも関連し、取り扱いには政治的な問題ともなり、研究全体にも大きな障害となっている。
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