研究概要 |
1.背景:新型インフルエンザ発生候補地の中国南部と国境を接するベトナムにおける疫学的検討が重要である背景から本研究が開始された。しかし、2003年から高病原性鳥インフルエンザA/H5N1が流行し、2008年3月現在106例の患者中52例の死亡例であり、パンデミック発生が危惧されている。 2.目的:不明なままであるベトナムのウイルス性急性気道感染症(ARI)の疫学的研究をインフルエンザに焦点を当てて調査し、アマンタジン耐性株発生状況、HA,N,M遺伝子の進化様式も検討する。 3.方法:2001-2006年にハノイ、ホーチミン、ニャチャン各地において、ARIと診断された患者からのインフルエンザウイルス分離とRT-PCR法によって疫学解析を行った。更には、採取されたA/H1N1,A/H3N2のヘマグルチニン(HA),ノイラミニダーゼ(NA)、M蛋白(M)の遺伝子解析により、それらの進化様式の解明、更にはマンタジン耐性株の有無も検討した。 4.結果・考察:2001年から2006年までの間に分離されたH1N1の15件中2件、H3N2は85件中11件(11.8%)がアマンタジン耐性であったが、H3N2は2005年5月以降に高頻度にアマンタジン耐性を検出し、日本や他のアジア諸国、米国、オーストラリア・ニュージーランドで検出された耐性株と共にHA遺伝子の2カ所に特異的な変異を持つClade Nであった。A/H3N2のHA遺伝子は、年毎に抗原性の違う株が出現したが,A/H1N1では同部位の変異は少なく、A/H3N2の方がA/H1N1よりもHA遺伝子の遺伝子進化速度が速いことが示唆された。特にA/H3N2ではHAは年々変化しているにも関わらず、NA遺伝子は数年間同じ遺伝子の挿入がみられ、M遺伝子では数シーズン前の遺伝子と同じ遺伝子が再度組み込まれるなど、各遺伝子は独立して組み替えを起こしていることが示唆された。遺伝子再集合は、多いとされるA/H3N2だけでなく、A/H1N1でも見られた。
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