研究概要 |
本年度は,最近多く使用されるようになってきたDLP方式のプロジェクタによる眼精疲労の問題と,奥行知覚の心理的要因を与えたときの近見反応を他覚的にとらえるという二つの分野で成果が得られた.最初のDLPプロジェクタは,安価な1枚のMDM素子を使用したプロジェクタで,色表示を行なうために赤緑青の3色の画像をそれぞれ順番に提示する色順次方式を採用している.したがって,眼が急激に動く場合には,赤,緑,青の画像が網膜上でずれて見えてしまう.それにより,暗い背景に明るい物体が写っている映像があると,眼が動くたびに明るい部分に3色の色にじみが出現する.これは,ちらつきとして現れるため目の疲労が考えられる.特に,常に眼が動いている先天眼振を有するもの(1000人に一人)は,日常生活等ほとんど問題が生じることは無いのにこのプロジェクタでは激しい疲労を訴える.この実態を主観評価法で測定し,一般の液晶プロジェクタと比較した.また,ステレオディスプレイは激しい眼精疲労をもたらすことが知られているが,このための基礎研究として,眼精疲労と密接な関係がある眼球調節機構の他覚的測定を試みた.この装置を利用して,奥行知覚の単眼視手がかりのみを与えたときに,調節・輻輳機能が反応してしまう現象をとらえることができた.このように映像関連の眼精疲労に関していくつかの成果を報告できたが,本年度開始の研究として最大の成果は,現在論文投稿中であるが,実際のステレオディスプレイに提示された視標を見ているときの調節・輻輳の乖離を他覚的に測定できたことが挙げられる.特に,乖離の程度が視標の空間周波数成分の差によって異なるという事実は,この乖離現象を定量的に議論する際の基礎となると考えられる.
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