研究概要 |
本研究では,音声生成と音声知覚の密接な関係を示す一例として「聴覚フィードバック」を取り上げ,知覚・生成の相互作用の解明を図ることを目的としている. 2年目は,知覚と生成の相互作用についてのモデル化の糸口をつかむことを目標に,発話音声,変形フィードバックされる音声,および新たに測定する生理指標の関係を明らかにすることを試みた.具体的には,以下の項目について研究を行った. (1)フィードバック音声の音質改善を行った 音質が補正反応に影響するため,音質を改善し反応が生じる確率を向上させた.これにより,摂動に対して約7割の確率で補正反応が生じるようになった.また,日本語母音のF1-F2に対して任意の大きさで摂動可能なように改良を施した.この結果,摂動量と補正反応の大きさの関係を詳細に検討できるようになった. (2)フィードバックの摂動量と補正量との関係,補正方向の検討を行った. 日本語母音/e/を中心として,F1,F2を変形させ,/a/,/i/,/u/方向へ摂動を加えた上で被験者にフィードバックする実験を行った.この結果,被験者の摂動への反応は摂動の方向と反対方向であり,発話において摂動に対する補正が行われていることが確認できた.スペクトルに関する聴覚フィードバックにおいて短時間での補正反応を捕らえた初めての結果である.摂動量と補正の大きさの関係については,完全に/a/,/i/,/u/となる摂動を100%としたとき,40-60%のときがもっとも補正量が大きいことがわかった.補正量と音韻境界との関連があるものと考えられるが更なる検討が必要である. (3)発話音声と生理指標の関係を論じる 生理指標として舌運動計測装置を導入し,聴覚フィードバックに摂動を与えたときの舌運動の変化を測定するための準備を行った.今後,詳細な測定を行う予定である.
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