研究概要 |
極限状態に置かれたウイルス、バクテリア、微小昆虫などの微小生物は、強い淘汰圧を受けながらも、見えないところで迅速に環境に適応している。本研究では、集団内の遺伝的変異と分子進化の階層モデルを通して、極限状態に置かれた微小生物の隠れた適応進化の様相を浮き彫りにすることを目的とした。微小生物の分子進化速度は速いため、その変化をリアルタイムで追える可能性を秘めている。プロジェクト初年度では、エイズ患者から継時的にサンプリングされたエンベロープ第三可変(V3)領域の配列、インフルエンザ流行予測を目的に40年近くにわたり世界中からサンプルされたHA1配列、および東南アジア各地からサンプリングされたハマダラカ(マラリア原虫のベクター)のCOI, COII配列を解析した。エイズウイルスでは、感染時の配列の立体構造がNMRで測られていることから、その2次構造を利用し、タンパク質立体構造の登録されたデータベースPDBに見られる統計分布から、サンプリングされたその他の配列の立体構造予測を行った。多次元尺度法により抗原決定基(6残基)近傍の構造変異を追ったところ、感染後大きく構造が変化した後、免疫系の淘汰圧から開放されるとともに構造が感染時のものに回帰していくブーメラン現象が観察された。配列レベルの進化に比べ、淘汰圧を直接的に受けている様子がはっきりと読み取れた。インフルエンザHA1配列では配列進化と構造変化を抗原・抗血清反応の変化に関連付けることを目的として同様の解析を開始した。PDBに登録された構造のクロスヴァリデーションにより、予測された構造により構造の変化を推測することの妥当性・信頼性を調べた。東南アジアハマダラカのCOI, COII配列の集団遺伝学的解析では、配列が互いに近い関係にあることを利用して、高精度な遺伝子系統樹を実現する最大部分セットの抽出、頑健な集団の履歴の推定を行った。
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