研究課題/領域番号 |
16300086
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸野 洋久 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (00141987)
|
研究分担者 |
徐 泰健 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特任助手 (60401189)
北添 康弘 高知大学, 医学部医学情報センター, 教授 (90112010)
渡部 輝明 高知大学, 医学部医学情報センター, 助手 (90325415)
|
キーワード | ウイルス分子進化 / 宿主適応 / 配列進化と構造進化 / quasispecies / 集団構造と履歴 |
研究概要 |
ウイルスが体内に侵入すると、免疫系の攻撃を受ける。この攻撃をかわしつつ細胞に感染すると、感染された細胞は、ウイルスの持つゲノムを、それと気づかず自身のそれに組み込む。細胞の複製とともにウイルスゲノムも複製する。集団遺伝学的な解析によると、潜伏期間にウイルス集団の遺伝子配列は塩基置換を重ねて直線的に多様化し、免疫系の攻撃を克服するとやがて置換速度が低下するとともに多様度も下がることが知られている。本年度はウイルスの宿主適応の第一の鍵を握る宿主細胞への吸着に注目し、抗原決定基の微細構造の変化と柔軟性を調査した。ヒト免疫不全ウイルス(HIV、いわゆるエイズウイルス)は、CD4 T細胞に感染する。宿主細胞への吸着には、CD4に結合しつつコレセプターCCR5、あるいはCXCR4に結合することが不可欠である。このコレセプターへの結合にはgp120における高度可変領域であるV3ループ、特にその中心部を占める15アミノ酸残基の立体構造が重要な役割を担う。立体構造はX線構造解析やNMRにより精密に測定することができるが、多数のタンパク質を直接測定し、その多様性と適応進化の様相を見ることは不可能である。そこで、9人の患者から定期的に集められた配列データを構造データベースに登録されている5つの構造データに対比させ、配列・構造適応度と構造柔軟性とその変化を比較調査した。配列・構造適応度は、構造データベースから埋もれ度合別にアミノ酸頻度とアミノ酸対頻度を求め、経験尤度で定義した。構造柔軟性は構造の事後分布のエントロピーで記述した。その結果、宿主間でV3ループ抗原決定基の柔軟性が異なること、また潜伏期間の終了期近くになり、配列・構造適応度が低下することが示唆された。背景要因として、V3ループの構造あるいは、gp120本体との相互作用に変化が起きていることが考えられた。
|