研究課題
基盤研究(B)
神経細胞の標的特異性がどのようにしてコードされているのかは、神経科学における未解決問題のひとつである。我々はこの問題の総括的理解をめざし、異なる運動神経細胞によりそれぞれ支配されているショウジョウバエの隣り合った2つの筋肉、筋肉12及び筋肉13間で発現に差異のある遺伝子を、単一細胞レベルでのDNAマイクロアレイにより同定した。同定した候補分子のなかには、標的認識過程に直接関与する可能性のある膜局在型または分泌型タンパク質が多数含まれていた。そのうちのひとつWnt4は、哺乳動物まで保存されているWntファミリーに属する分泌蛋白質で、筋肉13においてより多く発現していた。Wnt4の機能欠失変異体では、筋肉12の神経終末が小さくなる一方、筋肉13では神経終末が大きくなっていた。逆に、Wnt4を筋肉12において異所発現させると、この運動神経の筋肉12上での終末形成が阻害された。以上の結果は、Wnt4が筋肉13に発現し、筋肉12に投射すべき運動神経細胞に対し阻害的に働きかけることにより、それらが正しい標的細胞(筋肉13ではなく筋肉12)と結合するよう制御していることを示唆している。この結果は非標的細胞上の阻害分子の働きが、標的特異性の決定に必須の役割を果たしていることを示した初めての例である。さらに、異所発現による機能獲得型の表現系の解析から、Beat-IIIc, Glutactin、Sulfatase1等、筋肉13において発現する他の5つの標的分子の候補についても、標的認識過程において、阻害的な働きをもつことが示唆された。以上の結果は、阻害効果を介して標的特異性を決定するような標的分子が、ひとつの標的細胞上に多数存在することを示すものである。
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