研究概要 |
交尾刺激を引き金として雌マウスに形成されるフェロモン記憶は、副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン作動性シナプスにおける可塑的変化(長期増強:LTP、シナプス後膜肥厚サイズの増大)によって支えられている。交尾刺激による視床下部室傍核のオキシトシンニューロンの活性化や副嗅球におけるオキシトシン受容体の発現が認められることから、LTP誘導におけるオキシトシンの効果を検討した。オキシトシンは副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス伝達にLTPを誘導した。これらの結果は、オキシトシンがフェロモンの記憶形成に関わることを示唆している。 匂い嫌悪学習にCRE8のリン酸化が関わる。CREBのリン酸化はピストンのアセチル化を惹起することが知られている。そこで、ピストンの脱アセチル化酵素histon deacetylaseの阻害剤である酪酸ナトリウムを匂いと電撃の対提示時に嗅球へ投与することによって学習が促進されるかを検討した。酪酸ナトリウムの嗅球内投与によって匂いの嫌悪学習の保持時間が有意に延長した。これらの結果は、ピストンのアセチル化が匂いの嫌悪学習に関わることを示唆している。 われわれはすでに、鋤鼻ニューロンと副嗅球ニューロンの共培養によって鋤鼻ニューロンの成熟が誘導され,両ニューロン間に機能的なシナプスが形成されていることを見出している。そこで今回,共培養下における鋤鼻ニューロンの鋤鼻受容体発現量及びフェロモン応答性を検討した。鋤鼻受容体のV2Rファミリーに属するVR1及びVR4の発現量は,副嗅球との共培養から7〜14日目にかけて有意に上昇し,その後プラトーに達した。また,受容体発現量の経時的な変化と一致して鋤鼻ニューロンは尿に対する応答性を獲得した。これらの結果は、鋤鼻ニューロンの鋤鼻受容体発現と機能性獲得がその投射の標的である副嗅球ニューロンによって制御されることを示唆している。
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