線条体は、運動制御、運動学習、報酬行動などの重要な脳機能を媒介する大脳基底核神経回路において中心的な役割を果たす脳領域である。線条体には、形態的および電気生理学的応答によって区別される複数のGABA性介在ニューロンが存在するが、それぞれの行動生理学的な作用については十分研究が進んでいない。本研究では、特に、ソマトスタチン(SST)あるいはパルブアルブミン(PVA)を含有するGABA性介在ニューロンの行動生理学的な役割と両者のニューロンが線条体神経回路を調節する機構の解明に取り組む。遺伝子発現の特異性に依存して特定ニューロンを破壊する手法であるイムノトキシン細胞標的法を利用して、それぞれのニューロンを線条体回路から除去し、この動物の運動制御機能および線条体回路の変化を解析することを目的とする。昨年度までの研究において、SST含有ニューロンでIL-2Rαを発現する遺伝子改変マウスの線条体内にイムノトキシンを投与し、標的ニューロンの選択的な除去を誘導した。このニューロンの除去による運動機能への影響を解析し、SST含有ニューロンは運動行動の抑制に関与することを示唆した。本年度は、PVAを含有する線条体GABA性介在ニューロンの役割を明らかにするために、PVA遺伝子の制御下にIL-2Rαを発現する遺伝子改変マウスの作製を試みた。新たにPVA-IL2Rα/YFPノックインターゲティングベクターを作製し、マウス胚性幹(ES)細胞の標的遺伝子座の翻訳領域にIL2R-YFPカセットが挿入されたES細胞株をスクリーニングした。240株のG418耐性ES細胞株を樹立し、これらの細胞株のサザンプロットによるスクリーニングの結果、標的遺伝子座にターゲティングを受けた34株のES細胞株を選別することができた。現在、これらのES細胞株のうち正常なカリオタイプを持つ細胞株について胚盤胞へ注入し、初期胚を偽妊娠雌マウスの子宮内に移植することによって、キメラマウスの作製を進めている。今後、これらのキメラマウスの交配によって遺伝子改変マウス系統を樹立し、イムノトキシン細胞標的法を応用したPVA含有介在ニューロンの行動生理学的な役割の解析に発展させる。
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