研究概要 |
1)大脳皮質領野は、発生初期の終脳領域が、細胞構築としても、視床との特異的な結合性の点でもさらに分化して形成される。即ち、初期終脳の前部、後部、背側および腹側には分泌性の形態形成因子が選択的に発現しており、その濃度勾配によって特定の転写制御因子の発現が制御される。ついで、一連の遺伝子カスケードが機能し、最終的に皮質領野が決定されると考えられる。しかし、初期の転写因子の領域特異的な発現が、より後期の皮質領野の特質を決定する仕組みに関しては多くの点が不明である。我々は、この決定過程を明らかにする目的で、マウス16日胚の終脳の領域特異的に発現する遺伝子を、affymetrixのDNAチップ(12500遺伝子)を用いて網羅的に解析した。その結果、終脳の正中部、背側、および外側に選択的に発現する遺伝子をそれぞれ、34,35,および15個得た。2)さらに、定量PCRおよびin situ hybridizationにより絞り込みを行い、背側より7個(Neuropeptide Y,Wnt7b,TGF-βR1,Nrf3,Bcl-6,MT4-MMP,およびRptpκ)、正中より3個(Hoppending,HtrAおよびCrystallin)、外側より3個(Somatostatin,NgefおよびFxyd7)を得た。興味深いことに、背側より得られた遺伝子は、7個とも全て、将来の体性感覚野および聴覚野にかけて発現し、前後軸方向に発現レベルが低減する傾向を示した。皮質の層構造との関係でみると、その浅い層と深い層の2極に分離して発現した。3)初期終脳の前方化を規定しているPax6を欠損したマウスでは、Neuropeptide Yの発現は、脳の前方にシフトした。これらの知見は、初期の領域化を制御する遺伝子が領野を規定する過程を解明するうえで、重要なものであると考えられる。
|