研究概要 |
1.大脳皮質の領域特異性は胎生期のパターニングに基づいて発生する。すなわち、マウスで明らかにされたように、終脳の前方、後方には、それぞれ転写因子であるPax6およびEmx2が発現し、その下流のシグナル伝達因子として前方に高く後方に低い濃度勾配をもってFGF8が発現することにより、体性感覚野などの領域が決定される。しかし、領域の特異性が決定される詳細な仕組みは不明である。我々は、体性感覚野に特異的に発現する細胞接着因子であるカドヘリン6を指標に、胎生16.5日の終脳に領域性をもって発現する遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いて網羅的に検索し、内側、背側、および外側領域に選択的に発現する遺伝子をそれぞれ3、7、および3個、新規に単離することに成功した。背側の遺伝子は、将来の体性感覚領域に相当する部位に、前方から後方にかけて濃度勾配をもって発現し、そのうちニューロペプチドYはPax6の下流に位置づけられることを明らかにした。 2.マウスの体性感覚野は、頬髭の配列と位相を同じくするマップ(地図)が大きな比重を占めるように表現されている。このマップは、胎生期の終脳におけるFGF8の濃度勾配に基づいて領域が指定され、その領域内に形成される。しかしそのマップパターンが決定される仕組みは不明である。我々は、マップが形成される以前に、髭の形成を制御する転写因子であるShhをアデノウイルスベクターを用いて強制発現させることによって、頬髭のパターンを乱す方法を開発し、新たに獲得した表現型が中枢のパターンを決定するか、否かを検討した。その結果、末梢から中枢への神経伝達路にそって、表現型が転写され、最終的に大脳皮質のパターンが末梢に従って変換されることを明らかにした。 3.体性感覚野には視床後腹側核から選択的な投射があるが、この領域選択的な投射の仕組みは不明である。我々は、大脳皮質の5,6層の分化に障害をもつFez1マウスを用いて、視床ニューロンの体性感覚野へのガイダンス機構を解析した(理化学研究所日比正彦教授との共同研究)。野生型マウスでは、視床ニューロンと皮質から視床に投射するニューロンの軸策は胎生13.5-14.5日に内包部で会合するのに対し、変異マウスでは、皮質からの投射は遅れ、視床ニューロンは皮質一皮質下領域の境界を乗り越え、皮質に侵入する段階に障害が起こった。境界領域の遺伝子発現はほぼ正常であることから、皮質ニューロンと視床ニューロンのhand shakeにより、皮質ヘガイダンスされることが示された。
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