ムスカリン性アセチルコリン受容体のM5受容体遺伝子欠損マウスは脳梗塞を伴わない慢性的脳血管拡張障害マウスであることを明らかにしてきた。このマウスは、脳循環の自動調節能の破綻や神経突起の萎縮など脳老化の顕著な特徴を示した。さらに、このマウスの大脳皮質および海馬では、神経細胞の微小管結合タンパク質の安定性が破綻していることが明らかになってきた。本年度我々は、脳血管拡張障害に伴う神経突起の萎縮は、自発発火の減少と海馬CA3領野のLTP形成阻害と相関がある事を示した。このような神経萎縮に伴う行動学的な異常として知られているストレスによる海馬神経細胞変性と認知機能の異常に着目した実験を行った。Object recognition testとY-maze testといった行動学的な認知行動試験の結果、脳血管拡張障害を示すM5受容体遺伝子欠損マウスの雄は認知機能に異常を示した。objectに対する認知能力が欠けている事から、新規objectへ興味を示す事が無かった。さらに、Y-maze testでは、新規アームへ入った場合、以前に入っていたアームを空間的に認知できないという異常を示した。いずれの認知異常も海馬の神経突起の萎縮に関与していると考えられた。一方、脳血管拡張障害を示さないM5受容体遺伝子欠損マウスの雌は認知機能に異常を示した。この結果から、脳血管拡張障害と認知行動に相関がある事が示された。現在、認知異常の分子メカニズムを解明すべく、遺伝子発現プロファイリングを行っている。
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