我々は、線虫の転写因子をバイオインフオマティクスによりデータベース化し、そのノックアウト株をシステマティックに分離して、機能を解析するという研究を進めている。この経過中に、tm866というC42D8.4というEtsファミリー転写因子を標的としたノックアウト株が、化学走性において、複数の化合物に対して反応性が低いことを見出した。レポーター解析により、この転写因子が頭部神経系で発現していることから、この転写因子が嗅覚受容体の発現を制御している可能性を想定した。変異体をバッククロスしている過程で、この変異体株にはもう1個の遺伝子の変異を持っていることが判明し、1塩基多型がマップされているCB4856株との交配を行い、遺伝子型をPCR-RFLP法で決定して原因遺伝子の同定を行った。その結果、同一染色体上に存在するF32A6.2という名前のIFT-81(Intraflagellar Transport)蛋白質が原因遺伝子であった。バイオインフォマティクスにより、同一の蛋白質複合体の中で働いていると考えられるIFT-74(Cl8H9.8)遺伝子に着目した。我々は、ift-81とift-74両遺伝子のノックアウト株を追加して分離し、いずれも同一の表現型(化学走性の異常、短い体長、餌有り培地の上であまり移動しない)などが再現されること、IFT-81とIFT-74などがyeast two hybridアッセイで結合すること、IFT-81とIFT-74はどちらも感覚神経細胞で発現し、神経突起へ輸送されていることなどを見出した。さらに、この2つの遺伝子の変異体では、感覚繊毛の構造が異常になること、蛍光色素の取り込みが部分的に異常になることなど、既知のintralagellar transportを司るとされてきた遺伝子の変異体に比べてやや弱いが、類似の表現型を呈することを見出した。
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