本研究では、代表的蛋白質品質管理系であるユビキチンシステムを中心座標にすえ、神経細胞の生存や機能発現における新たな制御コミュニティの存在を証明する。神経伝達のみならずpostmitoticなど神経細胞の特性自体の獲得におけるユビキチンシステムの重要性につき実験的根拠を構築する。今年度は神経細胞死における脱ユビキチン化酵素UCH-L3の役割を検討した。野生型マウスの免疫組織化学からUCH-L1は網膜視細胞内節に生後3週齢以降に局在することが示された。UCH-L3遺伝子欠損マウスの網膜は発達期の生後10日齢までは明らかな組織学的変化は認められなかったが、3週齢で視細胞内節から萎縮が始まり12週齢では視細胞層はほぼ消失した。TUNEL陽性細胞は3週齢以降ではUCH-L3遺伝子欠損マウスの網膜外顆粒層に有意に増加していた。電子顕微鏡においてUCH-L3遺伝子欠損マウスの視細胞内節に空胞変性およびミトコンドリアの膨潤が観察され、クリステの面積比は有意に減少していた。また、UCH-L3遺伝子欠損マウスでは視細胞内節に酸化ストレスを示すCOX、Mn-SOD、AIFの発現が高かった。カスパーゼ依存性アポトーシスのマーカーであるcaspase-1と活性型caspase-3の発現およびcytochrome-Cの細胞質への移行は認められなかったが、カスパーゼ非依存性アポトーシスの指標となるEndo Gの外顆粒層への核移行像が観察された。これらの結果より、UCH-L3遺伝子欠損マウスの視細胞死は、ミトコンドリアの変化と酸化ストレスマーカーの上昇を伴うカスパーゼ非依存性アポトーシスであることが示唆された。
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