研究概要 |
抑制性GABAシナプスの短期・長期間にわたる伝達効率の制御に関与するシナプス過程の細胞・分子機構を解明することを目的に研究を実施した。2004年度は主に、小脳および扁桃体の抑制性GABAシナプスの働きに焦点を絞って解析をおこない、三つの主要な成果が得られた。第一に、先に我々は登上線維から小脳皮質へ放出される神経伝達物質は小脳GABA伝達の前シナプス抑制を引き起こすことを発見したが、このシナプス機構を仲介するAMPA型グルタミン酸受容体の性質を詳細に検討し、これがバスケット細胞の軸索終末に存在するGluR2/3型サブタイプであることを示す有力な電気生理学的および免疫組織化学的証拠を得て、この成果を論文投稿した。第二に、ATPおよびその分解産物であるADPが小脳GABAシナプスにおいて二種類の可塑性を起こすことを発見した。ATPは介在ニューロンの興奮性を高め短期的にGABA放出を促進し、さらにプルキンエ細胞のGABA受容体感受性を高めGABAシナプスの伝達効率の長期増強(LTP)を引起すことを見出し、その作用機構の一部を明らかにした。これらの成果を論文発表した(Saitow et al.,J.Neurosci.25,2108,2005)。第三に、扁桃体においてサブスタンスPのようなタキキニン神経ペプチドがGABAシナプス活動を顕著に促進することを見出した。また扁桃体の主細胞(錐体細胞)の膜電位は周期的に振動する現象を発見し、この電気的振動に関与する神経伝達物質およびイオン機構の一部を明らかにして、現在さらに詳しい性質の解析を進めると同時にその成果を論文にまとめている。今年度の新しい成果に基づき、次年度はとくにATPによるGABAシナプスのLTPを誘発する分子機構および前シナプス終末AMPA受容体によるGABA放出阻害機構の解明をめざした方向へ研究を展開する予定である。
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