研究課題
小脳片葉の出力細胞であるプルキンエ細胞は、3次元空間における視標追跡眼球運動という観点からどのような信号を担うかを明らかにするため、ニホンサルを用いて以下の点を調べた。1)輻輳運動に応答するか、応答する場合、輻輳運動の速度成分を持つか、位置成分(輻輳角)に応答するか、2)滑動性眼球運動ニューロンと輻輳運動ニューロンは個別に存在するか、それとも前頭眼野後部領域同様、輻輳運動と滑動性眼球運動を統合した信号を持つか、3)前後の直線加速度刺激に対して視線(空間内眼球運動)信号をもつかである。1)-2)については、112個の小脳片葉領域プルキンエ細胞について調べた結果、63%は、前額面と奥行き方向の追跡眼球運動信号をもち、24%は奥行きのみ、残りの13%が前額面のみに応答した。この結果は、従来の定説に反して、前額面のみに応答するプルキンエ細胞は極めて少なく、87%は奥行き成分を持つことを示す。輻輳運動速度に応答するかどうかを、追跡視標速度をあげることによって調べた結果、58%が速度応答を示した。さらに、大多数(72%)が位置成分を備え、それらは輻輳位置と速度の両成分に応答した。これらプルキンエ細胞は、系統発生学的に古い片葉と、新しい腹側傍片葉の両領域から記録された。以上の結果は、片葉領域においても前頭眼野とほぼ同様に3次元性眼球運動信号が再現されていることを示す。しかし予想に反し、これらプルキンエ細胞の大多数は、輻輳眼球運動の開始に、平均50msec遅れて発火し、大多数が輻輳眼球運動の開始に先行して発射する前頭眼野ニューロンとは、明らかな応答の違いを示した。3)片葉プルキンエ細胞は、直線加速度刺激の結果としての輻輳角および速度に対応して発射頻度を変えたが、前額面での水平回転刺激で報告されている視線速度応答は認めなかった。以上の結果は、片葉領域が視線運動よりも3次元性の眼球運動制御に関わることを示唆する。
すべて 2006 2005
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