研究概要 |
アジア産亜種マウス(M.m.molossinus)由来のMSMIMs系統から高品質のBAC(Bacterial Artificial Chromosome)ゲノムライブラリーを作製し、20万クローンのインサート端末両端の配列を決定し、C57BL/6J(B6)ゲノム配列と比較することにより、2系統間から50万近くのSNP(一塩基多型)情報を得た。それらのSNPの分布をみると,B6のゲノム中に局所的にSNP頻度が大きく低下している部分、すなわちmolossinusゲノムと相同性が高い部分を見出した。したがって、これらの領域はmolossinus亜種に由来するゲノム領域と考えられるが、B6ゲノムの場合、全体の約5%に相当していた。我々はそのゲノム上の正確な位置を決定し、B6という標準近交系統マウスゲノムにおける正確な亜種問モザイクゲノム構造の全体像を世界で初めて示すことに成功した。この結果は、実験用マウス系統に認められる多様な表現型が亜種ゲノムの混在による、という仮説を裏付けるものと考えられ、またいわゆる「遺伝的背景」のゲノム基盤を示す重要な知見と思われる。 さらに、この度作られたMSMBACクローンを利用したトランスジェネシスを通じて変異責任遺伝子の同定を効率化する手法の確立、そのための実験動物の作製を行なった。MSMに認められる高頻度の遺伝子多型を利用して導入トランスジーンの発現を検出・確認する手法を確立した。ここでは多能性胚細胞である原始外胚葉の増殖・分化に異常を呈し、胚性致死となるtw5変異に関して解析を行い、実際にMSM由来のBACクローン導入により変異表現型をレスキューすることによって、変異貴任遺伝子を同定することに成功した。このような手法は単一遺伝子変異のみでなく、QTL解析などの機能ゲノム解析においても有用と考えられる。
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