1.MRIの静磁場による脳活動の変化(昨年度より継続) MRI検査中に多くの被検者が眠気を感じるといわれている。その原因として、静磁場、MRIスキャナーの閉塞環境やスキャン中に発生する規則音などが指摘されているが、どの影響も明らかにされていない。そこで、スキャナー内に静磁場がある状態とない状態で脳波を測定し、MRIの静磁場により脳活動が変化するか否かを調べ昨年度一次解析を行った。しかし、解析精度が不十分であったため、今年度は磁場中での脳波の新しい解析方法の開発を行った。磁場中での脳波測定において、拍動に起因する体動の影響(BCG:バリストカーディオグラム)により頭部も振動するため、脳波電極には磁場中で振動することに起因する電圧が誘起される。そのため、磁場内での脳波データには、BCGによる大きな波形が重なる。BCGにより脳波に現れる振幅とその揺らぎの比は、拍動とその揺らぎにより決まるので、脳波測定部位によらず一定となる。この性質に着目し、脳波におけるBCGの影響を取り去る解析方法を確立した。それにより、磁場中でのα波などの背景脳波強度を定量的に求めることが可能となった。その結果、静磁場内で課題を行ったときθ波が増加した。そのとき他の脳波には変化は認められなかった。また、消磁後のスキャナー内外では課題遂行時および安静時のすべての脳波に変化は認められず、スキャナーの閉塞環境が脳波に影響しないことが確認された。静磁場内で課題遂行時に増加したθ波は前頭部ほど顕著であったので、Fm(Frontal midline)θ波であるといえる。Fmθ波は、ある事象に意識を集中するために他の刺激に対する反応を抑制する機構に関与しているといわれている。また、徐波(δ波、θ波)活動の増加が血流低下により発生することが報告されており、静磁場内では課題遂行時にFmθ波を増加させるべく前頭部ほど血流が低下しやすくなったものと推察される。一方、静磁場内では血流速度が低下するほど血液粘度が増加するので、静磁場内では血流速度低下と血液粘度増加が相乗的に作用し血流変化が促進されることが示唆される。したがって、課題遂行時のFmθ波に関連する血流の低下が静磁場内では発生しやすくなったものと推察される。以上のことより、1.5T MRIの静磁場による脳活動の変化がはじめて明らかにされた。
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