これまでに、ナノ粒子表面に提示した核移行シグナル(NLS)の構造とナノ粒子の核移行活性の間には密接な関係があり、minimum NLS(PKKKRKVという7アミノ酸残基)がNLS結合因子importinと結合するためには、N末端側及びC末端側の構造を最適化する必要があることを明らかにした。しかし、importinが最大量結合できる至適条件においても核移行の活性は10%程度であり、別の要因が核移行を阻害していることが予想された。前年度までの研究で、NLSを呈示しているナノ粒子を細胞質にマイクロインジェクションして経時的に細胞内から回収して定量すると、NLSを呈示しているナノ粒子のみが選択的に壊れる現象が観察され、またこの現象がプロテオソーム阻害剤で部分的に阻害されることが示された。そこで本年度はこの現象のin vitro系での解析を試み、プロテオソーム分解系として確立されているウサギ赤芽球抽出物を使った系や、インジェクションに使ったHEL細胞の抽出液を使った系で検討したが、いずれの場合も表面に呈示しているペプチドの有無や種類にかかわらずナノ粒子は極めて安定で、NLS特異的な分解は観察されず、細胞内で観察された現象は再現できなかった。今後はもう一度生きている細胞の系に戻ると共に、界面活性剤を使って抽出した細胞分画を使うなどin vitro系をさらに工夫して、核移行シグナルを介したナノ粒子の分解という特異な現象の原因をつきとめ、移行活性のさらなる向上を図りたい。
|