動物細胞への遺伝子導入は現代生物学の必須の技術であると共に、医療への応用が期待されている。効率の良い遺伝子デリバリーシステムであるウイルスは、細胞膜と核膜という遺伝子導入に対する強力なバリアをかわす機構を持っているため、臨床応用が進んでいる。一方、より安全性が高い非ウイルスベクターを実用化するためには人工的にこれらのバリアを通過する工夫を通じて導入効率の向上を図らなくてはならないが、細胞膜を介した遺伝子デリバリー技術の研究が比較的進んでいるのに比べて核膜を介した核への遺伝子ターゲティング技術は未だ確立していない。本研究では、DNA内封ナノ粒子のモデルとしてラムダファージを採用し、ファージディスプレイ法によってファージ粒子表面に核移行シグナルを提示させた直径53nmのナノ粒子を調製した。このDNA内封ナノ粒子を細胞質に微量注射してその細胞内動態を指標に、細胞質から核に移行するために必要なペプチドの構造を至適化した。最終的にC末端側に最適なアミノ酸残基を配置することで、核内への移行率5%という高い効率のターゲティングを実現した。ナノ粒子の核移行は光学顕微鏡や電子顕微鏡でも確認され、50nmものサイズを持つ粒子が核膜孔を通過できることを世界で初めて証明できた。また、DNA内封ナノ粒子が核移行シグナル依存的にプロテオソームで分解される現象を見いだし、これが核へのターゲティングの効率化を妨げている要因となっていることを初めて明らかにした。さらに核移行活性と細胞膜透過活性を併せ持つペプチドを利用して、動物細胞に効率よく遺伝子導入できる系を開発し、新しい遺伝子発現系の開発等に応用を進めている。
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