研究概要 |
本研究では,脳の機能回復のために,脳に適度な刺激を与えることを目的として,力覚だけでなく触覚呈示装置により圧力分布も指先に伝達できる新しいハプディック・ディスプレイ装置を開発することを目的としている. 本年度では,3リンクマニピュレータおよび分布圧覚呈示機構を搭載するハンドから構成されるシステムを試作した.本システムの分布圧覚呈示機構は,点字セル(KGS社製,型式:SC9)に独自開発した変換アダプタを組み合わせたものである.変換アダプタによって,ピン間隔は等間隔に変換されるとともに,最小厚さ25mmまでの仮想物体の呈示を可能にした.触知ピンアレイ規模とピン間隔は,それぞれ6×4と2mmであり,バイモルフ形PZTアクチュエータにより各触知ピンは最大1mmの上下動が可能である. 本研究では,本装置のリハビリテーションへの応用研究を進める前段階として,仮想物体の操作における触覚と力覚の役割について,調査するため次の2種類の予備実験を実施した.実験A:コンプライアンスの異なる4種類の仮想ペグについて,与えた仮想ペグの直径とペグを把持したときに得られる最終的な指間隔の差ΔDを計測する実験,および実験B:ペグの挿入作業を行い,接触力,物体と手先の位置などを計測する実験,という2種類の実験を行った.実験AとBでは,2種類の条件,すなわち1)力覚のみの呈示および2)力覚と触覚同時呈示で,4人の被験者に対して呈示実験を行った. その結果,実験Aでは,条件1)と2)で得られたΔDを比較すると,力覚のみ呈示の条件2)の方がΔDが大きくなり,両者の差はペグのコンプライアンスが大きいほど顕著になったが,実験Bでは,2つの条件間で有意な差は認められなかった.以上の結果から,仮想物体を持つ/離す瞬間に触覚の効果が大きく現れることがわかった.作業療法においては,持つ/離す動作を頻繁に繰り返すため,本システムの適用が有効であるものと思われる.
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