研究概要 |
温熱負荷により廃用性筋萎縮の進行を減衰させることが検証でき,この萎縮予防効果の主な要因として,温熱負荷により誘導される熱ショックタンパク質(HSP70)の関与が示唆される.HSP70は血管内皮細胞に対して,ストレス保護作用があり,内皮細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている.一方,廃用性萎縮筋ではアポトーシスを伴う毛細血管の退行などの毛細血管ネットワークのリモデリングが観察される.そこで,温熱負荷によるプレコンディショニングでHSP70を誘導し,後肢懸垂中の骨格筋線維タンパク質及び毛細血管ネットワークのリモデリングに対する予防効果について検討した.プレコンディショニング温熱負荷は無麻酔下で43℃環境下に60分間/日の曝露をした.1,2,3および4日間施行した上でHSP70の誘導が最大であった4日間を本研究でのプレコンディショニング温熱負荷とした.その予防効果を検討した.萎縮筋では筋原線維タンパク質量,遅筋型ミオシン重鎖アイソフォーム,及びC/F比が減少した.共焦点レーザー法による毛細血管ネットワーク構造は血管内皮細胞のアポトーシスを伴う退行・崩壊像がみられ,特に吻合毛細血管の減少が観察された.プレコンディショニング温熱負荷により直腸温,及びヒラメ筋温は約42℃になり,HSP70は有意に増加を示し,筋原線維タンパク質量,遅筋型ミオシン重鎖アイソフォームおよびC/F比の減少を減衰した.また,萎縮筋でみられた毛細血管ネットワークの退行も抑制された.これらの結果から後肢懸垂前に行う温熱負荷は廃用性筋萎縮を予防し,毛細血管ネットワークのリモデリングにも影響を及ぼすことが示唆された.今後,本効果のメカニズムの解明や部分温熱負荷による治療方法の開発について検討する予定である.
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