研究概要 |
我々はこれまで,筋血流制限下でもレジスタンストレーニングにより,負荷強度がきわめて低くとも顕著な筋肥大と筋力増加が起こることを報告してきた。この効果のメカニズムを解明することは,運動・トレーニングによる筋肥大の一般的メカニズムを知るためにも,また低体力者のために新たな低負荷トレーニング法を開発するためにも有用と考えられる。このため,本研究では,動物(ラット)およびヒトを対象とした筋血流制限モデル系を開発し,生化学,分子生物学的解析を主に行った。その結果,以下が判明した;1)ラット後肢下腿静脈を外科的に閉塞すると,2週間の通常飼育下で下腿筋に肥大が起こり,グリコーゲン濃度,乳酸濃度,NO濃度の増加が見られた。肥大筋ではmyostatin量の低下,NOS-1,HSP-72,HGF(活性型)などの発現増加がみられた。2)ヒトを対象とし,血流制限下でもトレーニングによって,短期間(2週間)で筋肥大をもたらすモデル系を開発した。この方法により,平均約8%の筋断面積の増加が起こり,循環血漿中のIGF-1濃度にも増大が認められた。3)DNAマイクロアレイ解析により,胎児型ミオシン(MYH3,MYH8)の発現が特に顕著に増加しており,筋サテライト細胞による筋新生過程の活性化が示唆された。4)ヒト筋生検では,トレーニング後にIGF-1(IGF1), IGF-2(IGF2)の発現増加がみられた。一方,myostatin(GDF8)の発現が低下し,follistatin-like protein(FSTL1), caveolin-1(CAV1)などの発現が顕著に増加した。これらの結果から,骨格筋肥大にはmyostatin合成の低下に加え,その拮抗物質の増加などが重要な役割を果たし,これらの発現変化に筋内の酸素環境が関与することが示唆された。
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