研究概要 |
運動時の過度の体温上昇は運動パフォーマンスを低下させる.これは運動に直接関わる呼吸・循環・神経系などの調節機構が体温上昇により抑制されるためであると考えられるが,そのメカニズムは分かっていない.そこで,本研究では過度の体温上昇に伴う運動パフォーマンス低下のメカニズムとその対策を検討するために,本年度は静的運動時の身体調節機構(呼吸・循環・体温・神経の各調節機構)が体温上昇によってどのように影響されるのかを検討した.1)環境温23-25℃,相対湿度50-60%の環境下で下肢を43℃の湯に浸し,食道温が上昇する前とそれが約1℃上昇した時に最大随意筋収縮の50%強度の掌握運動を60秒間実施した.また,皮膚交感神経活動を測定するために,仰臥位姿勢で水循環スーツを用い温熱負荷を行い,同様の運動を負荷した。この結果,食道温上昇前後で掌握運動時の筋出力には大きな変化がなかったが,心拍数と平均血圧の変化量は体温上昇時の方が大きくなる傾向にあった(心拍数は有意な増加).一方,皮膚交感神経活動の変化には体温上昇程度で顕著な差は認められなかったが(その活動が小さくなる傾向),発汗量や皮膚血流量(あるいは皮膚血管コンダクタンス)では体温上昇時の変化量が有意に小さくなった.さらに,セントラルコマンドの指標である自覚的運動強度は体温上昇時に有意に大きくなった.このことから,体温が約1℃上昇すると同じ強度の掌握運動でも身体への負担が大きくなり,それは呼吸・循環調節では運動時の反応の上昇が,体温調節ではその反応の低下(体温上昇が大きくなるような反応)が示された.
|