持久的運動により活性化される骨格筋のシグナル伝達経路のうち、AMPキナーゼに関して、まず、ラットに一過性の持久的運動を行わせ、運動直後にヒラメ筋を摘出してAMPキナーゼリン酸化を調べたところ、AMPキナーゼ特異的活性化剤AICARの投与1時間後と同様にAMPキナーゼリン酸化が亢進していた。この強度の運動をトレーニングとして2週間毎日行わせたところ、転写補助因子PGC-1α、転写因子PPARδ、糖輸送担体GLUT-4タンパクの増加と、酸化系酵素CS、MDH、βHADなどの活性の増加が認められた。このことから、持久的トレーニングによる骨格筋の代謝特性の変化の少なくとも一部にはAMPキナーゼが関与しており、PGC-1αやPPARδの発現を高め、さらにPGC-1αがPPARδに結合して転写活性を高めることにより酸化系酵素活性の増加などにいたるのではないかと推測される。またAMPキナーゼ活性化作用を有する糖尿病改善薬メトホルミンをラットに2週間混飼投与し、骨格筋のPGC-1α発現や酵素活性などを検討したところ、AICARと同様にPGC-1α発現や酸化系酵素活性の増加が観察された。よって、メトホルミンは持久的運動と同様の機序で糖尿病を改善している可能性がある。次に、持久的トレーニングにより活性化されるカルシニューリンを阻害する実験を行ったところ、骨格筋の酸化系酵素活性に変化はなかったが解糖系酵素活性が増加した。このことから、カルシニューリンは持久的トレーニングによる酸化系酵素活性の低下に関与していることが示唆された。
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