研究概要 |
男性より女性で有症率が高い尿失禁は,高齢者の生活機能の自立や生活の質を阻害する要因として,高齢期の健康管理に大きな負担を与える症状である.さらに,尿漏れによる不安感やウツなどの心理的な影響とともに家事や家族関係,社会活動や対人関係などを含んだ様々な個人活動が制約される傾向が強いことが指摘されている.これらの社会活動の制限は,生活機能を低下させ,介護者の負担が大きくなることから,適した予防策や改善策をいかに立てるのかが大きな課題である. これらの背景を踏まえて,本研究では,都市部在住尿失禁高齢者の特徴や排尿機能改善を目的とした取り組みの成果を詳細に分析することを目的とした.まず,尿失禁者の特徴を検討するために,70歳以上の地域在住高齢者957名のデータを分析したところ,尿失禁者は43.5%と高く,尿漏れの頻度はほとんど毎日20.0%,2日に1回6.3%,1週間に1〜2回20.4%,1ヶ月に1〜3回23.1%であった.尿が漏れるときの動作は,トイレに辿り着く前35.5%,咳やくしゃみをした時39.6%,体を動かすあるいは運動の時8.9%であり,1回漏れる量は,下着が濡れる程度83.2%,下着の交換が必要な程度13.7%であった.尿失禁者は年齢,体重,BMIが有意に高く,通常歩行速度や最大歩行速度,開眼片足立ちの成績が有意に低かった.尿失禁者は非尿失禁者に比べて,健康度自己評価および定期的な体操や運動習慣を持っている者の割合は有意に低かった. 尿漏れの頻度が月1回以上の290名(30.3%)に対して,尿失禁の改善を目指す「快適教室」への参加者を募集した.その結果,147名が参加を希望し,143名が不参加であった.参加希望者147名をRCTにより4群に分け,運動+温熱シート群37名,運動群37名,温熱シート群37名,対照群36名に配置し,3ヶ月間の指導を行った.その結果,運動+温熱シート群は握力,開眼片足立ち,内転筋力,通常歩行速度が,運動群は握力と内転筋力が,温熱シート群は握力と内転筋力が有意に改善される効果が得られた.尿漏れが完治された者の割合は,運動+温熱シート群54.1%,運動群40.0%,温熱シート群27.0%,対照群14.7%と有意な改善効果が得られ(x^2=13.484,P=0.004),地域在住高齢尿失禁者の尿漏れの改善を目指す介入は有効であったことが追認された.今後,介入の長期的効果を検証するために追跡調査を行う予定である.
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