研究概要 |
本プロジェクトは、キチン、キトサンのような未利用天然資源を使用してフィルムを製作し、そのフィルムの力学的性質と生物分解特性および抗菌活性を主に検討した。 初めに、キチン、キトサンおよび四級化キトサンフィルムを調製した。キトサンと四級化キトサンフィルムの力学的性質と抗菌活性を評価した。キチンフィルムの引張強度はキトサンフィルムよりも30〜40%程度低かったが、前者の結晶化度は後者よりも遥かに高かった。Staphylococcus aureusとEscherichia coliに対する四級化キトサンフィルムの抗菌活性は、キトサンフィルムよりも強かった。 次に、キトサン/PVA複合フィルムを試作し、その力学的性質と生物分解特性を検討した。キトサン/PVA複合フィルムの最大延伸倍率は、PVA含有量が増すに従って増加した。7倍延伸倍率の22/78複合フィルムのヤング率は、室温で20GPaに達し、8倍延伸倍率を保持した純粋なPVAフィルムよりも高かった。複合フィルムの接触角はキトサン含有量が増すに従って大きくなり、搬水性が増大した。 キトサン/PVA混合フィルムの抗菌活性は、E.coliよりもS.aureusが優れていたが、PVA含有量の増加でそれほど有効でなくなった。その抗菌活性は、四級化したキトサンによって処理した混合フィルムでは、より効果的になり、中和してもほとんど影響を受けなかった。これは、ブレンド処理による延伸がヤング率と引張強度を増加させ、工業材料としての応用展開の可能性を示唆した。重量減少は、キトサン含有量の高い複合フィルムが速く、水田土壌中の分解は、赤土土壌よりも有効であった。特に、未延伸フィルムの重量減少は顕著であった。スポンジ状に大小多数の穴が赤土土壌と比べて水田土壌中の試料で3.5〜4.4倍開いていた。これは、生物分解速度がキトサン含有量の増加で速くなったことを示唆している。キトサン/PVA複合フィルムの生分解は始めキトサン領域の分解が進行し、その後PVA領域の分解に移行すると推察される。キトサン分解菌(Sphingobacterium multivorum)は土壌から分離・同定できたが、残念ながらPVA分解菌は分離できなかった。PVAは生分解可能な合成高分子と言われているが、土壌埋没3〜8ヶ月後では殆ど分解せず、通常の土壌中では分解速度が極めて遅かった。 これらの成果は、ドイツのマルチンルター大学で開催された2004高分子材料国際会議、チェコの高分子化学研究所で開催された2005プラハ高分子に関する討論会、高分子学会、日本家政学会、日本防菌防黴学会で発表し、その一部はJ.Home Econ.Jpn(Vol.56,No.12)、Biocontrol Science(Vol.11,No.1)に報告した。
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