本研究では、アジア圏の数学における「隠れた学力」として数感覚(ナンバー・センス)の育成の実態について、比較検討を行うことを目的とした。本研究では、先行研究をもとに数感覚の概念を明らかにするとともに、数感覚の対象をこれまでの自然数・分数・小数から、正負の数、無理数など中等教育数学科の内容を含むように拡張した。さらに、確率を表わす数に対する感覚も、数感覚のなかに組み入れて、捉えるという新しい枠組みを構築した。 また、ナンバーセンスの育成が、電卓やコンピュータを活用した数学教育においては将来重要であるとの考えから、数学教育におけるテクノロジーの活用についても考察を行った。 さらに、アジア圏で数学学力が高いとされる大韓民国・シンガポールならびに日本、対照する国としてアメリカ合衆国を選び、そこでのナンバーセンスならびにテクノロジー(電卓・グラフ電卓・コンピュータなど)の活用の実態をカリキュラムならびに教科書のレベルでの比較を行った。その結果、大韓民国やシンガポール、アメリカ合衆国ではテクノロジーの活用が積極的に進められていること、また、数感覚の育成に関しては、アメリカ合衆国が積極的に取り入れており、日本もその育成を奨励していること、それに比べると大韓民国やシンガポールでは数感覚の育成に関しては考慮されているものの、あまり進められていないことが推測された。 これらの検討のもとに、ナンバーセンスの実態を調査するための調査項目の作成を行った。開発された調査問題は、過去の数感覚関係の先行研究、博士論文、修士論文で使用された問題をカバーし、さらに今回の研究で開発されたものを含み、小学校算数から高校数学までを含む広範囲のものとなった。 初期に企画した各国での実際の調査は実施できなかったが、シンガポール、大韓民国や香港での若干の現地見学を実施し、今後の実行に備えた。 研究成果報告書には、カリキュラム分析の結果と、開発した調査問題を収録した。
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