実際の紙資料の保存状態に近い試験方法である挿入法を提案した。この方法により、アルカリ性紙と酸性紙が接触すると大きな変色を生じることがあることを示した。この予備研究結果は、アルカリ性紙(いわゆる中性紙)を用いれば良しとした従来の考え方を覆すものであり、紙資料保存の現場で深刻に受け止められている。 実際の変色例は酸性紙同士よりも酸性紙とアルカリ性紙の接触で変色が大きくなることを既に示した。しかし、綴じられている箇所の変色は小さかった。これまでの研究で、80℃で酸性紙とアルカリ性紙の両者を重ねて促進劣化させる挿入試験では、変色は40%RHから80%RHの湿度範囲では湿度上昇に伴って上昇した。一方、95%RHで圧力をかけた場合には変色が抑えられた。95%RHではアルカリ性紙から酸性紙にCaイオンが転移するのみでなく、酸性紙中の硫酸イオンが接触しているアルカリ性紙や中性紙に転移して、酸性紙のpHが上昇して変色が抑えられたことが明らかとなった。 文化財保存現場で使用されている主なアルカリ性紙と中性紙について酸性紙の変色に及ぼす影響を検討した。酸性紙の変色はアルカリ性紙のpHが高いほど大きかった。よって、酸性紙の変色を防止するにはアルカリ度の低い紙を用いるほうが良いことがわかった。
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