研究概要 |
本研究の目的は、黒潮及びその周辺海域(亜熱帯環流域)においてCO_2吸収量を評価し、物理、化学・生物過程(例えば窒素固定)が担っているそれぞれのCO_2吸収能力を評価することである。大気と表面海水の二酸化炭素分圧差は、大気・海洋間のCO_2交換を推進する原動力であり、その時間的・空間的変動は主として海洋物理と海洋内部の炭素・窒素循環により支配されている。海洋内部の炭素・窒素循環とは、化学・生物学的見地からは無機・有機態間の変換過程に他ならない。このことを明らかにするため、本研究では北太平洋西部亜熱帯環流域(137°E及び165°E、10,20,30°N)に観測点を設け、年4回程度、海洋表層から中層に至る炭酸系、粒子の化学成分、無機態及び有機態炭素・窒素の安定同位体比の観測を実施することとした。本年度は、気象庁観測船「凌風丸」及び「啓風丸」を用い、年4回の航海で、ほぼ予定通り海水試料を採取することができた。得られた海水試料については、溶存無機炭素の炭素安定同位体比測定を先ず行った。炭素安定同位体比データと観測で得られた炭酸系パラメータ(二酸化炭素分圧と溶存無機炭素濃度)を組み合わせ、暫定的ではあるが137°Eにおける群集基礎生産の季節変化を評価することが出来た。また、亜熱帯や赤道太平洋における海洋二酸化炭素分圧の10年程度の時間スケールでの変動や経年的な増加に注目して解析を行ない、1.6μatm/yrで増加していることを見出した。更に中深層水への炭素輸送に関してセジメントトラップの結果から粒子中の有機炭素と珪藻の殻の成分であるオパールとの相関関係を見出し、学会誌に報告した。今後は、懸濁態粒子の炭素・窒素同位体比、物理場のデータ同化の結果などを用いることにより、日本南方の亜熱帯環流域における炭素・窒素循環の空間的な変化及び季節変化〜年々変動に関する詳細な知見を得ていく予定である。
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