砕氷船「しらせ」の第1観測室で、岐阜大学で開発された超高感度ラドン検出器を用いて1)紋別から鳥取までの日本海洋上(2004年9月13日〜9月17日)、2)フリマントル(往路2004年12月3日〜)→昭和基地(12月21日〜2005年1月23日)→シドニー(〜復路3月18日)の南極海洋上で、海洋表層の大気中ラドン濃度の連続観測を行った。特に、南極海のラドン濃度観測結果は南アメリカ大陸、アフリカ大陸から南極大陸への物質の移流・拡散の解明に寄与するものである。 南極海洋上におけるラドン濃度の最低バックグランド値は0.02Bq/m^3である。この濃度値は海洋のラドン散逸率(0.01個/cm^2秒)から計算される濃度値と良く一致した。 南極海洋上で6例のラドン濃度増大現象(ラドン嵐)を観測した。この内、2005年2月25日〜26日のラドン嵐では、「しらせ」は昭和基地から約500km離れたアムンゼン湾沖合を航行中で、昭和基地との平行観測を行うことができた。NOAAの赤外線衛星写真から、両観測点は946hPaの低気圧の前線の縁に位置していたことが分かった。観測値と全球移流拡散モデル計算値を比較すると、ラドンは南アメリカ大陸から約1週間で南極海を渡り昭和基地まで到達していた。ラドン嵐の到達時間は良く合うが、濃度値が「しらせ」145mBq/m^3、昭和基地85mBq/m^3、モデル計算値24mBq/m^3と大きくずれている。ラドン検出器器差は最大20%のため前線の縁でラドンはかなり局在している可能性が大きい。前線上の雲はフィラメント状になり、その経度幅は細いところで5度以下である。今後、モデルはこのような低レベルラドン濃度の局在を再現しうる改良が必要であろう。 これらの南極海におけるラドン濃度観測結果は全球移流拡散モデル計算結果と比較検討され、大陸起源物質の長距離輸送の解明に役立つものである。
|