本研究の目的は、本邦河川の水質に関する現況の把握と近過去からの変容を明らかにすること、長期的な水質変動とその地域差を調査しその原因を理解することにある。このために、これまでは全国の河川の広域的な水質調査を行ってきた。また、ダム湖のような中途停滞水域の出現などによる流程改変が水質にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにするために、新設ダム湖での長期的な水質変動を調査してきた。しかし、本邦河川水質の現況と近過去からの変容を十分に理解するためには、自然状態での河川水質の形成過程を把握しておくことも重要であると考え、今年度は山地渓流水の水質変動とその機構の解析を試みた。研究代表者の所属機関がある京都市の東山山系と比叡山山系から流出する4つの河川を選び、約10の観測定点を設けて、水質の季節変動を調査した。また、山地渓流水との対照を行うことを考えて様々な河川が流入している鴨川でも観測を行った。いわゆる「シリカ欠損」問題と関連するケイ素について重点的に調査をした。山地渓流水での濃度は季節的にも位置的にもあまり変化は見られなかった。一方、さまざまな河川水を合一し、京都盆地を流れる鴨川のケイ素濃度は山地渓流水のそれに比べて格段に低く、半分以下の濃度にあった。この原因について、現在、鋭意検討中であるが、中途停滞水域の形成による影響も十分に考えられる。主要陽イオンの中では、マグネシウムイオンのみが大きな季節変動を示した。このことが山地からの流出過程に起因しているのか、それとも周囲の人為影響のためかについては今後の検討課題である。
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