小林純(1961)が研究した河川に準拠して、北海道から鹿児島に至る133の河川で水質の調査を行った。両者の結果を比較することで1950年代からの長期的な河川水質の変遷、現代の河川水質の地域特性、それらをもたらす流域内の因子について考察した。その結果、次のことがわかった。Clは人為的負荷の影響で激増し、Ca、 Mg、 Na、 Kは同じく人為的負荷の影響を受けて微増していた。SO_4は化石燃料の燃焼による影響を受けて激増していた。Pの増加も確認されたが、これには人為的な影響は少ないと考えられた。 一方、Si濃度には減少が見られた。流域の降水量や面積などの水文指標との関連を調べたところ、流域内の貯水能力が大きいほど、濃度減少の度合が高いことがわかった。すなわち、濃度減少には流域内での中途停滞水域の出現が深く関与していることが示唆された。 ダムの新設による河川水質の変動について、岡山県北部の奥津湖を例に取り上げて研究した。このダム湖では顕著なケイ素濃度の減少は見られなかった。これはダム湖が河川上流域に位置していて、リン酸濃度が低いために活発な植物プランクトンの繁殖が起こらないためであった。このことはダム湖における湖底堆積物へのケイ素貯留は、ダム湖へのN・Pの供給量が鍵を握っていること、この意味でN・P濃度の高い河川下流域のダム湖のほうがケイ素貯留が起こりやすいこと、を示していた。 湖水環境の変化による湖底堆積物からの酸素酸イオンの溶出について、バナジン酸とリン酸を例に取り上げて研究した。その結果、自然の湖、ダム湖にかかわらず湖水域の物質動態には、水質変動による堆積物/水界面での化学成分の分配の変化が大きく影響することがわかった。
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