研究概要 |
バイカル湖集水域のモンゴルのフブスグル湖の湖底堆積物を用い、アジア北東部における長期環境変動と生物構造変遷に関する研究を行った。また、バイオマーカーの迅速な分析法を開発するため、熱分解・メチル化・ガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリー(PyMeGCMS)について検討した。 最終氷期から現在までの過去約2万年間については、グラビティコア(X106、HV05ST2、HV05ST3)を用い詳細な検討を行った。氷期における生物生産量[全有機炭素(TOC)濃度]は極めて低く、湖面が通年凍結し湖の周囲にはヨモギ等の草本植物がわずかに分布していたと考えられる。約12,000年前のBolling-Allerod温暖期および約11,000年前のYounger Dryas寒冷期がみられた。その後の温暖化に伴い、湖内の生物生産量が増加すると共に高木植物の著しい増加が、TOC濃度、アルカン、植物色素および花粉化石より明らかになった。 HDP04堆積物コア(80.0m)の57.46mにはBrunhes-Matuyama境界(78万年前)、77.84mにはJaramillo-Chronの末端(99万年前)がみられ、本コアの最深部は103万年前に達し、平均堆積速度は8.6cm/kaと見積もられた。HDP04コアのTOC濃度と海洋の酸素同位対比(MIS)間には厳密な対応関係はみられず、グローバルな環境変動の影響よりもローカルな環境変動の影響が強く反映されていることが明らかになった。光合成色素誘導体濃度はTOC濃度変動と対応し、湖内の生物生産量を反映することが判明した。深度18〜20mでは緑色硫黄細菌による色素がみられ、湖底が還元状態になったことが強く示唆された。 フブスグル湖の生物生産量はバイカル湖より若干低く、1,200mの高度差が影響している可能性がある。外来性有機物はバイカル湖と同様に温暖期で大きくなるが、それらの割合はフブスグル湖が大きく、湖盆が小さいため陸上植生の影響が大きいためと考えられる。 PyMeGCMSにより一連の脂肪酸とフェノールカルボン酸がHV05ST2堆積物コアに検出された。これらのパターンは、酢酸エチル抽出したバイオマーカーのパターンと類似し、本法が迅速分析法として有効であることが明らかになった。
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