研究概要 |
親潮域の観測定線(Aライン)上で鉄濃度および鉄の断面観測を5,7,10,1,3月の5回行い、合わせて栄養塩、炭酸系等の海洋環境パラメータの観測を行った。鉄については採水資料を現在測定中であり、17年度に他データと合わせて解析に供される。炭酸系等の海洋環境パラメータについては年度内に採水資料の測定を終了し、そこからまず他の解析の基礎となる、親潮域混合層の水塊構造とその変動についての解析を行った。従来は適切な水塊指標の無かった親潮混合層内の微細な水塊の相違を検出可能な新たな水塊指標(Cp0)を独自に開発し、観測当時の親潮混合層内部の水塊構造変化を詳細に跡付ける事に成功した。 又16年度の観測と資料測定に並行して、Hl5年度までに試験的に行ってきた親潮域の鉄濃度変動の観測データを解析し、親潮域の鉄の供給経路と生物影響について下記の知見を得た。 1.親潮域混合層の鉄濃度は黄砂飛来以前の冬期に最大濃度を示し、その濃度は春期ブルーム時の生物による鉄消費の殆どを支えるに充分である事が判明した。この事から親潮混合層への鉄供給経路として、従来の黄砂からの溶出説以外に、冬期鉛直混合による海洋深層からの供給も重要である事が明らかとなった。 2.冬期の親潮混合層中に局所的に極めて大きな鉄濃度を示す水塊がしばしば観測され、その多くが沿岸親潮系の水塊だった。この事から沿岸からの水平移流による鉄の供給も無視出来ない大きさである事が示唆され、この定量化が17年度の課題として重要である。 3.春期ブルーム時に親潮混合層内の鉄濃度が一次生産の制限要素となり得る濃度まで減少している事が、現場観測により初めて確認された。但しこの際にも粒状鉄は混合層内に豊富に存在する事が判明したため、これらの粒状鉄の生物利用能についての評価が17年度の新たな課題となる。 これらの解析結果については国際学会で公表済みであり、現在論文化中である。
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