研究概要 |
昨年度に続いて親潮域の定線上で鉄濃度と栄養塩等の断面観測を5,7,10,12,1月の5回行い、試料を採水した。これらの採水試料を現在分析中である。 昨年度までの測定結果の解析から、親潮域における鉄の周年変動パターンが初めて明らかになり、混合層の溶存鉄濃度は海水の鉛直混合が最大となる冬期に最も高く、春期ブルームの開始と共に検出限界以下まで減少する典型的栄養塩パターンを示す事が明らかとなった。この事と北大低温研で進行中のオホーツク海域の鉄データ解析結果とを合わせて、西部亜寒帯域の海洋表層への鉄供給経路の全体像に関する仮説を、本科研費と北大低温研の他プロジェクトの合同成果として構築した(西岡、論文投稿中)。構築された仮説が平年的な鉄の循環像を示しているのか否かを、2005年度および来年度の分析結果を追加する事で今後検証する。 今年度の春期ブルーム開始時期が大幅に遅れた為、ブルーム時の鉄濃度変動が生物生産に与える影響を観測する為の培養実験を、予定された5月航海で行う事が出来なかった。この為親潮域の春期ブルーム規模の経年的な変遷を解析し、それが鉄を変動要因としてどのように説明し得るかを解析し、鉄が生物生産に及ぼす影響を間接的に明らかにする事を試みた。この結果、春期の植物プランクトン種組成が鉄要求量の高い種と低い種に周期的に交代している事が明らかとなり、これが春期ブルーム規模の周期的増減を支配している可能性が示された(小埜、論文作成中)。このような植物種の変動は親潮水中の沿岸親潮成分比に大きく影響されていると予想されるが、この比を同位体を使って定量的に見積もる手法も実用化済みであり(小熊・渡辺、論文作成中)、引き続いて次年度に解析が行われる予定である。
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