たとえ低線量であっても放射線に照射された細胞内のDNAにはDNA二重鎖切断(DSB)が生じる。DSBの修復機構には、大きく分けて非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)の2つが存在し、細胞周期によってこの2つの経路を使い分けることでゲノム安定性が保たれているが、それらの機構とDNA修復精度、さらにはDNA損傷に起因する遺伝子変異などとの関連は未解明のままである。そこで本研究では、これら2つのDSB修復系路に関わるタンパク機能を、修復精度という新たな視点から解明する。本年度は、ニワトリDT40細胞を用いたHprt遺伝子突然変異誘発実験系の開発を試みた。DT40細胞は遺伝子ノックアウトが容易で、遺伝子機能の解析には大変有用な細胞であるが、この細胞のHprt遺伝子は常染色体上に存在するため、そのままでHprt欠損突然変異の評価に用いるのは困難である。通常、APRTのような常染色体上の遺伝子を用いた突然変異検出系では、ヘテロ細胞を作成して研究に用いるが、これまでの予備実験で、DT40細胞では6-チオグアニン耐性によって選択されたHprt欠損突然変異体の中にリバータントが生じる、すなわち本質的な変異体ではない細胞クローンが、マウスやヒト細胞の場合よりはるかに多く現れることがわかっている。そこで、DT40細胞のHprt遺伝子を完全にノックアウトし、その細胞にHprtが正常なヒトX染色体を導入したハイブリッド細胞を作成して突然変異検出系を構築することを試み、現在、染色体移入を行っているところである。これと並行して、マウス細胞を用いたsiRNA利用可能なシステムの構築にも取り組み、雄マウスの肺線維芽細胞由来の自然不死化細胞株を樹立したので、今後この細胞を用いてHprt突然変異系に利用可能かどうかの検定を行う予定である。
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